東京高等裁判所 平成12年(行コ)217号 判決 2000年11月29日
控訴人
A株式会社
右代表者代表取締役
甲
右訴訟代理人弁護士
佐野榮三郎
被控訴人
本郷税務署長 河本幹正
右指定代理人
大圖明
右同
早川治
右同
倉田薫
右同
枚田喜逸
右同
高野浦信昭
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が平成九年一〇月九日付けでした控訴人の平成四年九月、平成五年一月、同年四月及び同年七月の各月分の源泉徴収に係る所得税の各納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分を取り消す。
二 被控訴人
主文同旨
第二事案の概要
本件は、控訴人の代表者である甲が個人で負担すべき借入金の利息等を控訴人が支払ったことが、控訴人の甲に対する賞与の支給に当たるとして行われた源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分に対して、控訴人が取消しを求めている事案である。
なお、控訴人は、訴え提起前に次のような別件の訴えを提起している。すなわち、その経緯は、(一) 控訴人は、甲名義で昭和六二年一一月一〇日に購入されたB株式会社の株式一〇〇株式(以下「本件株式」という。)は、控訴人が甲名義を借用して購入したものであり、控訴人に帰属するとして税務申告をしたが、被控訴人は、本件株式は甲個人が購入したものであり、控訴人が株式会社Cから借り入れた二億六二五〇万円(以下「本件借入金」という。)の借主も甲であるとして、本件借入金の利息及び本件借入金に係る印紙税(以下「本件支払利息等」という。)は、控訴人の損金に算入できない等の理由で、法人税の更正処分をした。(二) 控訴人は、被控訴人のした昭和六三年九月期の法人税の更正処分の取消しを求めて東京地方裁判所に提訴(同庁平成五年(行ウ)第二〇号)したが、本件借入金及び本件株式は甲に帰属するから、本件支払利息は控訴人の損金に算入できないとして、右請求が棄却されるとともに、右借入金の利息は控訴人の甲に対する貸付金として処理されるべきであると判示され、これを不服とした控訴人の控訴(当庁平成六年(行ウ)第四二号)も棄却されて確定した。(三) その後、被控訴人は、控訴人の平成元年九月期から平成三年九月期の法人税について、本件支払利息、印紙税及び源泉所得税の損金算入並びに本件株式に係る配当金の益金算入をそれぞれ否認し、右損金算入否認額と益金算入否認額との差額は甲に対する控訴人の貸付金であるとして、控訴人の右事業年度の期末利益積立金に右差額を加える内容の更正処分をした。また、控訴人は、右貸付金相当額を認定したことに伴い、これに対する利息相当額の経済的利益が日々控訴人から甲に供与されたものと認め、これを甲に対する報酬の支給に当たるとし、右報酬の支給に係る源泉所得税が納付されていないとして、控訴人に対して右報酬に係る源泉所得税の納税告知処分をした(なお、右処分のうち、平成三年一〇月分ないし平成四年九月分は、平成七年一一月二八日付けで取り消された。)。(四) これに対して控訴人は、平成元年九月期から平成三年九月期の法人税に係る右更正処分及び源泉所得税の右納税告知処分等の取消しを求めて東京地方裁判所に提訴(同庁平成七年(行ウ)第五四号)し、右裁判所は、平成九年一月二九日、本件借入金及び本件株式は甲に帰属するから、本件支払利息は控訴人の損金に算入できないとしたが、本件支払利息等を控訴人の甲に対する貸付金として被控訴人が処理した部分について、本件支払利息等に係る支払は賞与の支給に当たるとして控訴人の請求の一部を認めた(以下「九年一月地裁判決」という。)被控訴人は、右判決中、被控訴人敗訴部分に不服があるとして控訴(当庁平成九年(行コ)第二二号)したが、同裁判所は、平成九年一一月二〇日、一審判決をそのまま維持して、右控訴を棄却した(以下「九年一一月高裁判決」という。)。被控訴人は、右判決中、平成元年一一月分、平成二年二月分、同年五月分、同年八月分及び平成三年九月分の源泉所得税の納税告知処分並びに平成二年二月分、同年五月分、同年八月分及び平成三年九月分の不納付加算税の賦課決定処分に係る処分について、不服であるとして上告し、現在、最高裁判所に係属している。(五) 被控訴人は、前記(三)と同様に、控訴人の平成四年九月期及び平成五年九月期の法人税について、本件支払利息、印紙税及び源泉所得税の損金算入並びに本件株式に係る配当金の益金算入をそれぞれ否認し、右損金算入否認額と益金算入否認額との差額は甲に対する控訴人の貸付金であるとして、控訴人の右事業年度の期末利益積立金に右差額を加える内容の法人税更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件当初更正処分」という。)をした。(六) 控訴人は、右更正処分の取消しを求めて東京地方裁判所に提訴(同庁平成九年(行ウ)第四〇号)した。(七) その後、被控訴人は、本件支払利息は控訴人の甲に対する貸付金には該当せず、控訴人の甲に対する賞与に当たる旨の九年一月地裁判決を踏まえて、平成四年九月期及び平成五年九月期における本件支払利息等について、本件借入金及び本件株式は甲に帰属するものの、本件支払利息等は甲に対する賞与と認めてその額に相当する金額の貸付金認定を取り消すとともに、改めて総額計算をした結果、これが過失となるとして、平成四年九月期及び平成五年九月期の法人税に係る各減額更正処分等(以下「本件再更正処分等」という。)をした。(八) 控訴人は、前記(六)の訴訟を取り下げた。(九) 被控訴人は、本件支払利息等について、平成九年一〇月九日、控訴人が支払った本件支払利息等は、甲が負担すべき費用を控訴人が負担したのであるから、控訴人は甲に対して本件支払利息等相当額の経済的利益を供与したものであり、その支払回数及び態様等からすれば、臨時的な給与の支給、すなわち賞与に該当するから、控訴人はこれに対する源泉徴収をすべきであるのにこれをしていないとして、平成九年一〇月九日付けで控訴人の平成四年九月、同年一〇月、平成五年一月、同年四月及び同年七月の各月分の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の各納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分(以下「本件納税告知処分」。「本件賦課決定処分」又は併せて「本件納税告知処分等」という。)をした。
こうした別件訴訟の経緯とそれらに現われた事実関係をもとにして、さらに控訴人は、本件訴えを提起し、(一) 控訴人は甲に対して支払うべき未払金があるから、本来、甲が個人で支払うべき本件借入金利息等を控訴人が甲に代わって支払ったとしても、右支払は、経済的には控訴人が甲に支払うべき右未払金及びその利息相当部分に支払われたものとみるべきであるから、甲は、自らの資産で自らが支払うべき右借入金利息等を支払ったことになり、控訴人から甲への出捐はなかったと評価すべきである、(二) 被控訴人は控訴人との別件訴訟である九年一一月高裁判決に対して、本件支払利息等を甲に対する貸付金であると主張して上告しており、本件納税告知処分等においてこれを賞与と認定するのは矛盾し、また、被控訴人が、本件支払利息等について貸付金であるとして本件当初更正処分をしながら、その後、これを賞与とする本件納税告知処分等をしているのも矛盾している、(三) 本件納税告知処分は、理由附記を欠くから違法である、などと主張して右処分の取消しを求めている。
その余の事案の概要及び当事者双方の主張は、原判決「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」に記載のとおりである。
原審は、(一) 控訴人は甲に対して未払金を有していたが、本件支払利息等については、右未払金と相殺することなく、控訴人の損金額に算入して支出していたから、右未払金から本件支払利息等が実質的に支払われたと評価する余地はない。(二) 被控訴人が本件納税告知処分等において本件支払利息等を賞与と認定したとしても、被控訴人は、控訴人との別件訴訟(当庁平成九年(行コ)第二二号)において、本件支払利息相当額を甲に対する貸付金であると主張して上告しているわけではないから、矛盾するものではない、(三) 控訴人主張の本件当初更正処分は、その後された本件再更正処分等により取り消されているから、控訴人主張のような矛盾はない、(四) 国税通則法三六条一項二号、二項によれば、税務署長が、源泉徴収による国税でその法定納期限までに納付されなかったものを徴収しようとするときは、納税の告知をしなければならないが、その告知をする納税告知書には、告知理由の附記は要件とされていないとして、本件請求を棄却した。これを全部不服として控訴人から本件控訴が提起されたものである。
当審においても、争点は、原審と同様であり、(一) 本件支払利息等は、控訴人の甲に対する未払い金から支払われたか否か(原判決の「争点1」。以下同様にいう。)、(二) 本件納税告知処分は、被控訴人が、控訴人との別件訴訟(当庁平成九年(行コ)第二二号)の主張と矛盾し、また、被控訴人が、控訴人に対して本件支払利息等について貸付金であるとした本件当初更正処分と、これを賞与とする本件納税告知処分等は矛盾するか(争点2)、(三) 本件納税告知処分において処分理由を明らかにすることを要するか否か(争点3)である。
第三当裁判所の判断
当裁判所も、控訴人の主張は理由がないものと判断するが、その理由は、次に付加するほかは原判決の「事実及び理由」欄の「第三 争点に対する判断」に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決二五頁六行目の「原告が甲に対する有していた」を「原告が甲に対して有していた」に改める。)。
一 争点1について
控訴人は甲に対して支払うべき未払金があるから、本来、甲が個人で支払うべき本件借入金利息等を控訴人が甲に代わって支払ったとしても、右支払は、経済的には控訴人が甲に支払うべき右未払金及びその利息相当部分に支払われたものとみるべきであるから、甲は、自らの資産で自らが支払うべき右借入金利息等を支払ったことになり、控訴人から甲への出捐はなかったと評価すべきであると主張する。しかし、控訴人は甲に対して未払金を有していたが、本件支払利息等については、右未払金と相殺することなく、控訴人の損金額に算入して支出していたことは当事者間において争いがないから、右未払金から本件支払利息等が実質的に支払われたと評価する余地はないのである。したがって、右主張は採用できない。
二 争点2について
控訴人は、被控訴人は控訴人との別件訴訟である九年一一月高裁判決に対して、本件支払利息等を甲に対する貸付金であると主張して上告しており、本件納税告知処分等においてこれを賞与と認定するのは矛盾する、と主張する。しかし、原判決が認定判断するとおり、被控訴人の九年一一月高裁判決に対する上告理由は、本件支払利息相当額が控訴人の甲に対する賞与に当たるとの同判決の認定を認めたうえで、右利息相当額が賞与に当たることに伴い、右賞与に対する源泉所得税も発生することになるから、支払事実が異なるとしても、右発生税額の範囲内でされている前記納税告知処分及びこれを前提とする不納付加算税の賦課決定処分は、なお適法であるとするものであり、本件支払利息相当額を甲に対する貸付金であると主張して上告しているのではないから、右主張は採用できない。また、控訴人は、被控訴人が、本件支払利息等について貸付金であるとして本件当初更正処分をしながら、その後、これを賞与とする本件納税告知処分等をしているのは矛盾すると主張する。しかし、前記別件の訴え提起の経緯(五)ないし(七)のとおり、被控訴人は、控訴人の平成四年九月期及び平成五年九月期の法人税について、本件支払利息、印紙税及び源泉所得税の損金算入並びに本件株式に係る配当金の益金算入をそれぞれ否認し、右損金算入否認額と益金算入否認額との差額は甲に対する控訴人の貸付金であるとして、控訴人の右事業年度の期末利益積立金に右差額を加える内容の本件当初更正処分をしたが、その後、本件支払利息は控訴人の甲に対する貸付金には該当せず、控訴人の甲に対する賞与に当たる旨の九年一月地裁判決を踏まえて、平成四年九月期及び平成五年九月期における本件支払利息等について、本件借入金及び本件株式は甲に帰属するものの、本件支払利息等は甲に対する賞与と認めてその額に相当する金額の貸付金額認定を取り消すとともに、改めて税額計算をした結果、これが過大となるとして、平成四年九月期及び平成五年九月期の法人税に係る本件再更正処分等をしたのであるから、本件当初更正処分等における貸付金認定は、本件再更正処分等において取り消されており、本件再更正処分等と本件納税告知処分等との間に何ら矛盾はないから、右主張も採用できない。
三 争点3について
控訴人は、本件納税告知処分は、理由附記を欠くから違法であると主張する。しかし、原判決が説示するとおり、国税通則法三六条一項二号、二項によれば、税務署長が源泉徴収による国税でその法定納期限までに納付されなかったものを徴収しようとするときは、納税の告知をしなければならないと規定されているが、その告知をする納税告知書には、告知理由の附記は要件とされていないのであり、また、同法七四条の二第一項は、国税に関する法律に基づき行われる処分、その他の公権力の行使に当たる行為について、行政事件手続法第二章及び第三章の規定を適用しない旨を定めており、他に納税告知処分につき処分理由を附記すべきことを定めた法律の規定はないから、控訴人の右主張も採用できない。
四 結論
以上によれば、本件においては、控訴人の本件支払利息等の支払は甲に対する経済的利益の供与に当たり、その支払回数及び態様等からすると、臨時的な給与である賞与の支給に該当することになり、控訴人が右賞与について、所得税法一八三条に定められた源泉徴収を行わず、これに係る源泉所得税を国に納付していないことになるから、同法一八六条一項一号イ、平成六年法律第一〇九号による改正前の所得税法別表第四に基づき、右賞与に係る源泉所得税額を計算すると、原判決添付別表3の<5>欄の各金額となるので、これと同額でした本件納税告知処分は適法である。また、控訴人が本件納税告知処分により納付することとなる右各金額を法定納期限までに納付しなかったことにつき、国税通則法六七条一項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、同項に基づき、不納付加算税額を計算すると、原判決添付の別表1の<5>欄の各金額となるので、これと同額でした本件賦課決定処分は適法である。
よって、原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 伊藤瑩子 裁判官 鈴木敏之 裁判官 秋武憲一)